吸収合併と登記(1)
吸収合併とは、会社が他の会社とする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させるもので、会社の規模を拡大する手段として利用されます。株式会社、持分会社を問わず、すべての種類の会社は、すべての種類の会社と合併をすることができます。会社が吸収合併をする場合において、吸収合併後存続する会社が株式会社であるときは、吸収合併契約において、会社法第749条1項各号に掲げる事項を定めなければなりません。また吸収合併の効力は、登記の日ではなく、効力発生日に効力が生ずることとなりました(会社法第750条1項)。
存続株式会社は、効力発生日の前日までに、株主総会の特別決議によって、吸収合併契約の承認を受けなければなりません(会社法第795条1項)。 1.吸収合併存続株式会社が承継する吸収合併消滅会社の債務の額として法務省令(会社法施行規則第195条1項)で定める額が吸収合併存続株式会社又は吸収分割承継株式会社が承継する吸収合併消滅会社の資産の額として法務省令(会社法施行規則第195条2項)で定める額を超える場合、2.吸収合併存続株式会社が吸収合併消滅株式会社の株主又は吸収合併消滅持分会社の社員に対して交付する金銭等(吸収合併存続株式会社又は吸収分割承継株式会社の株式等を除く。)の帳簿価額が承継資産額から承継債務額を控除して得た額を超える場合、3.承継する吸収合併消滅会社の資産に吸収合併存続株式会社の株式が含まれる場合には、取締役は、吸収合併契約承認の株主総会において、その旨を説明しなければなりません。存続株式会社が種類株式発行会社である場合において、吸収合併消滅株式会社の株主又は吸収合併消滅持分会社の社員に対して交付する金銭等が吸収合併存続株式会社の株式で、第749条第1項第2号イの種類の株式である場合には、吸収合併は、当該種類の株式(譲渡制限株式であって、第199条第4項の定款の定めがないものに限る。)の種類株主を構成員とする種類株主総会(当該種類株主に係る株式の種類が2以上ある場合にあっては、当該2以上の株式の種類別に区分された種類株主を構成員とする各種類株主総会)において議決権を行使することができる株主が存しない場合を除き、当該種類株主総会の決議が必要です。
吸収合併消滅会社が存続株式会社の特別支配会社である場合には、吸収合併契約の承認に関する存続株式会社の株主総会の決議を省略することができます(会社法796条1項、略式合併)。特別支配会社とは、ある株式会社の総株主の議決権の10分の9(これを上回る割合を当該株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)以上を他の会社及び当該他の会社が発行済株式の全部を有する株式会社その他これに準ずるものとして法務省令(会社法施行規則第136条)で定める法人が有している場合における当該他の会社をいいます。ただし、吸収合併消滅株式会社の株主又は吸収合併消滅持分会社の社員に対して交付する金銭等の全部又は一部が存続株式会社の譲渡制限株式である場合であって、存続株式会社が公開会社でないときは、省略することができません。なおこの場合において、会社法第796条2項各号に掲げる場合であって、存続株式会社の株主が不利益を受けるおそれがあるときは、存続株式会社等の株主は、存続株式会社に対し、吸収合併等をやめることを請求することができます。
吸収合併消滅会社の株主又は吸収合併消滅持分会社の社員に対して交付する株式等の価格の合計額(会社法第796条3項1号)が吸収合併存続会社の純資産額として会社法施行規則196条の規定により定まる額の5分の1(これを下回る割合を当該会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えない場合には、吸収合併存続会社の株主総会の決議を省略でいます(会社法第796条3項、簡易合併)。ただし、債務承継額が承継資産額を超える場合等又は吸収合併消滅株式会社の株主又は吸収合併消滅持分会社の社員に対して交付する金銭等の全部又は一部が存続株式会社の譲渡制限株式である場合であって、存続株式会社が公開会社でないときは、省略することができません。この場合において、法務省令(会社法施行規則第197条)で定める数の株式(吸収合併契約の株主総会において議決権を行使することができるものに限る。)を有する株主が会社法第797条第3項の規定による通知又は同条第4項の公告の日から2週間以内に吸収合併等に反対する旨を存続株式会等に対し通知したときは、当該存続株式会社は、効力発生日の前日までに、株主総会の決議によって、吸収合併契約等の承認を受けなければなりません。
吸収合併をする場合 吸収合併存続株式会社の債権者は、存続株式会社に対し、吸収合併等について異議を述べることができます。 この場合、存続株式会社は、会社法第799条2項に掲げる事項を官報に公告し、かつ、知れている債権者には、各別にこれを催告しなければなりません。この異議申述期間は、1箇月以上必要です。 存続株式会社が同項の規定による公告を、官報のほか、第939条第1項の規定による定款の定めに従い、同項第2号又は第3号に掲げる公告方法によりするときは、知れている債権者に対する各別の催告は、省略することができます。 債権者が異議申述期間内に異議を述べたときは、存続株式会社は、当該吸収合併等をしても当該債権者を害するおそれがないときを除き、当該債権者に対し、弁済し、若しくは相当の担保を提供し、又は当該債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社等に相当の財産を信託しなければなりません(会社法第799条、債権者保護手続き)。