募集株式の発行
株式会社が資金を調達する手段には、募集株式の発行、社債の発行、借入れ等があります。このうち募集株式の発行は自己資本といい、これは株主自らが出資したお金で返済しなくてもよいお金のことです。社債の発行や借入れは他人資本といい、これはいわゆる借金のことで所定の期限までに返済しなければならないお金のことです。株式会社の特徴のひとつがこの募集株式の発行(会社法施行前はこれを新株発行と呼んでいました。)で、大衆から会社の株主となるものを募り出資金を集め会社の資金を調達し、その株主が経営に優れたものを取締役として選任し、その者に会社の運営を任せることで、利益を上げ、規模を拡大していくことを想定しています。テレビの討論番組では、会社の所有者は従業員であるといった議論がよく交わされていますが、法律上は株主を会社の所有者として捉え、会社の重要な決議(組織再編、解散、営業譲渡など)や利益の配当を受ける権利を株主に与え、株主が会社に出資したお金は、会社の所有者自らがが出資したお金(つまり自己資本)だから、返済しなくてもよいと構成しています。そして会社を解散し会社の資産を処分した時は、そのお金でまず借金を返済し、余りがでれば会社の所有者である株主のもとに戻ります。
会社法施行後は、新株発行の手続きと自己株式の処分の手続きが一本化され、これらを「募集株式の発行等」として同一の手続きに整理されました。募集株式の発行の手続きは、公募、第三者者割当、株主割当の3種類に分類されます。株式会社が、その発行する株式又はその処分する自己株式を引き受ける者の募集をしようとする時は、その都度、募集株式について会社法第199条1項各号の掲げる事項を定め、株主総会の特別決議(会社法第199条2項、会社法第309条2項5号)を得るのが原則です。ただし公開会社の場合は、有利発行である場合を除き募集事項の決定につき取締役会の決議で定めることとされ(会社法第201条1項)、また株主総会で募集事項を定めることとされている会社においても募集株式の数の上限及び払込金額の下限を株主総会の決議で定めれば、その他会社法第199条1項各号の掲げる事項の定めの決定を、取締役(取締役会設置会社においては取締役会)に委任することができるとされています(会社法第200条1項)。募集事項の決定を取締役(取締役会設置会社においては取締役会)に委任する旨の株主総会の決議は、募集株式の引換えとする金銭等の払込期日(払込期間においてはその期間の末日)がその決議をした日より1年以内の日である場合のみ有効です。また公開会社において取締役会の決議で募集事項の定めの決定をした場合は、株主に募集株式の発行の差止めの機会を与えるため、払込期日(払込期間においてはその期間の末日)の2週間前までに、株主に対して当該募集事項を通知又は公告しなければなりません(会社法第201条3項、4項、但し会社法第201条5項の場合を除く)。会社法第199条1項2号の払込金額が募集株式を引き受けるものに特に有利な金額である場合(いわゆる有利発行)には、、公開会社、非公開会社を問わず募集事項の決定につき株主総会の特別決議が必要とされ、取締役はその株主総会においてその理由を説明しなければなりません(会社法199条2項、3項、同法200条2項、同法201条1項、同法309条2項5号)。株主割当てにより募集株式を発行する場合は、会社法第199条1項各号に掲げる募集事項の他、株主に対し募集株式の申込みをすることにより当該株式会社のぼ募集株式の割当てを受ける権利を与える旨及び申込期日を定めなければなりません。株主割当ての場合の決議機関は、公募や第三者割当の方法により募集株式を発行する場合の募集事項の定めの決議機関等に関する規定(会社法199条2項から4項、同法200条、同法201条)を適用しないとし、会社法202条3項において募集事項の定めの決議機関に関する規定を独自に設けています。原則として株主総会の特別決議を必要とし、定款に定めがある場合は、取締役(取締役会設置会社においては取締役会)に募集事項の定めの決定を委任することができます。また公開会社においては取締役会の決議が必要です。また株主割当ての場合は、公開会社、非公開会社を問わず、申込期日の2週間前までに株主に対して会社法202条4項各号に掲げる事項を通知しなければなりません。これは株主に申込みの機会を与えるためなので、通知に代えて公告をすることはできません。